(8) 単式蒸留器の平衡蒸留回数(Ne)の測定方法
図3-9
図 3-9 循環蒸留器(A)
[Neの測定方法]
図3-9のような循環蒸留器にエタノール水溶液を張り込んで、長時間循環蒸留を行い、缶液と留出液組成が一定となった場合、留出液のエタノール濃度は缶液より高くなっていますが、留出液のエタノール濃度は、缶液を平衡蒸留器で何回蒸留したことに相当するか(Ne)を数値で表すことができます。
[Neの計算]
単式蒸留機のNeは必ず1.0以上であり、通常2.0未満ですが、分縮器を用いると2.0以上になる場合があります。
(ⅰ) 1.0 < Ne < 2.0の場合のNeの計算
①図3-9のような蒸留機によりエタノール水溶液の循環蒸留を長時間行い、缶液(濃度x1)と留出液(濃度y)のエタノール濃度が一定になったとします。
②図3-10に掲げるように、缶液x1と平衡な蒸気のエタノール濃度をy1とします。
③蒸気(y1)を液化した場合のエタノール濃度をX軸にとりx2とします。
y1 = x2 (3-1)
④x2に平衡な蒸気のエタノール濃度をy2とします
⑤図3-9の留出液は、図3-10のC点であり、蒸気(濃度y)に平衡な液の濃度をxとします。
⑥平衡蒸留において缶液がxの時、缶液に平衡な留出液はyですから、図3-9の蒸留機のNeは図3-10のグラフの線分の長さから求めることができ、式(3-2)のように表すことができます。
Ne = 1 + AB/AD (3-2)
濃度を用いると、式(3-2)は式(3-3)のように表すことができます。
Ne = 1+ (x – x1) / ( x2 – x1 ) (3-3)
または式(3-1)を代入して
Ne = 1+ (x – x1) / ( y1 – x1 ) (3-4)
Ne:平衡蒸留回数
x1:缶液のエタノール濃度(%v/v)
y1:缶液のエタノール濃度x1(%v/v)と平衡な蒸気のエタノール濃度(%v/v)
x2:濃度x1(%v/v)の溶液と平衡な蒸気を液化した場合のエタノール濃度(%v/v)
y :循環蒸留器において缶液がx1(%v/v)の時の留出液エタノール濃度(%v/v)
x:蒸気のエタノール濃度y(%v/v)と平衡な缶液のエタノール濃度(%v/v)
(ⅱ) 2.0 < Ne < 3.0の場合のNeの計算
Neの値が2.0< Ne < 3.0の場合は式(3-5)により、同様に求めことができます。
Ne = 2 + ( x – x2 )/ (x3 – x2) (3-5)
x3:濃度x2(%v/v)の溶液と平衡な蒸気を液化した場合のエタノール濃度(%v/v)
(注)
式3-3に相当する場合の理論段数(N)として既報(文献3-5)では、組成x1の液に平衡な蒸気組成y1と、N=2.0に相当する蒸気組成y2を基準として次式により求めました。
N = 1 + (y – y1)/(y2 -y1) (3-6)
しかし、平衡蒸留器で組成yの蒸気が得られる場合の液組成はxであることから、平衡蒸留回数は式3-3のように、液組成x1と、y2に平衡な液組成x2を基準として求める方がよいと考えられます。
工業的な蒸留塔は多数の棚段により構成されており、分離が困難な物質については数百段に達する場合もあります。一方単式蒸留機は次節以下に述べるように理論段数は通常1以上2未満であり、分縮器を使用すると2以上になりますが、それでも最大3以下と推察されます。
したがって、単式蒸留機の場合は、式3-6によりNeとして小数点以下まで算出した数値により精留効果を評価する方が良いと考えられます。
