本章の内容
(1) 単式蒸留機の機能の概要
(2) 単式蒸留機の精留効果
(3) 単式蒸留器によるエタノール水溶液の蒸留
(4) 水-エタノール蒸気の分縮による濃度変化
(5) 精留効果の評価
(6) 平衡蒸留回数による単式蒸留器の精留効果の評価方法
(7) 平衡蒸留回数と理論段数の関係
(8) 単式蒸留器の平衡蒸留回数(Ne)の測定方法
(9) 単式蒸留器の精留効果測定結果(文献3-5)
(10) 単式蒸留器による醪の蒸留における留出液成分に影響する要因 (文献3-6)
(11) 分縮器付単式蒸留器による留出成分の制御(文献3-6)
(12) まとめ
(13) 引用文献
(1) 単式蒸留機の機能の概要

図3-1のように、発酵の終わった醪を単式蒸留機(ポットスチル型、以下同じ)に張り込んで加熱すると、温度が上昇し缶液内に蒸気の泡が生じ、揮発成分は液中及び液面から蒸発します(図2-3参照)。
また、缶液温度の上昇に伴い、液中では化学反応により成分の変化が起きます。缶液中では非常に複雑な反応が起きていると推察されますが、泡盛古酒の芳香成分の一つであるバニリンの前駆物質の生成、芋焼酎の特徴香であるテルペンアルコール類の生成、こげ臭の原因物質であるフルフラールの生成などが報告されています(文献3-1)。
一方、缶液から発生した蒸気は蒸留缶内を上昇しますが、蒸留機の外部は温度が低いので、内部では上方ほど温度が低くなっており、蒸気温度の低下に伴い、蒸気の一部が凝縮します。蒸気の一部が凝縮することは「分縮」と呼ばれています。後で(Ⅰ-3-4参照)述べるように、分縮が起きると、残った蒸気中のエタノール濃度は上昇します。
また、温度が低下すると沸点の高い物質ほど蒸気圧が低下し、存在できる量が減少するので、蒸気中の高沸点成分の濃度が低下し、低沸点成分濃度が高くなります。
以上をまとめると図3-2のようになります。

焼酎(単)の蒸留は、以前から蒸留機の大きさに関係なく3時間程度がよいと言われていますが、熱化学反応と関係があると考えられます。
蒸留中の蒸留缶では、焼酎(単)の香気に関し好ましい成分であるバニリン前駆物質やテルペンアルコール類などが生成する一方、炭水化物(デンプンや糖類)の熱分解反応により「こげ臭」の原因物資であるフルフラール類など好ましくない成分も生成します。
つまり、蒸留時間が短いと蒸留缶液において香気成分の生成が不十分であり、長すぎるとこげ臭の原因物質であるフルフラール類など、好ましくない物質の濃度も高くなると推察されます。