6-4 実証蒸留機による醪の蒸留
鹿児島県奄美大島にある町田酒造(株)のご厚意により、実証用に作製された再蒸留型単式蒸留装置による黒糖焼酎醪の蒸留実施例を掲げます。
6-4-1 実証蒸留機の概要
この蒸留装置は、ガラス製の再蒸留型実験装置( 図6-3)をスケールアップしたものです。
(1)蒸留機の種類 分縮液または留出液全量が再蒸留可能な、常圧蒸留機。
(2)醪の張り込み量 100L
(3)蒸留機の構造の概略 図6-7、分縮機内蔵、銅製。
(4)蒸留機の外観 図6-8
(5)蒸留装置の作製 (株)ケミカルプラント


町田酒造(株)提供
6-4-2 蒸留方法
仕込部に、黒糖焼酎醪(アルコール濃度15.6%v/v、酸度6.3)100Lを張り込み、次の3通りの蒸留を行いました。(以下町田酒造(株)社内研究報告書より転載)
① 蒸留A(ポットスチル型の蒸留)
図6-8において、蒸留開始前に、逆流防止蓋を取り外し、再蒸留部液抜きバルブを全開として蒸留しました。この方法では再蒸留部に凝縮液は溜まらないので、ポットスチル型に近い蒸留となります。分縮機には冷却水は流しませんでした。
② 蒸留B(分縮液の再蒸留)
逆流防止蓋を装着し、前記バルブは閉め、分縮機には冷却水を流さないで、最初に仕込液を加熱して蒸留し、仕込液の温度が99℃になった時、仕込液の加熱を停止し、以後再蒸留部液を加熱して蒸留しました。
③ 蒸留C(留出液全量の再蒸留)
蒸留機は蒸留Bと同様の蒸留ですが、前半は分縮機に十分冷却水を流して蒸気を全部凝縮させて再蒸留部に溜め、仕込液の温度が99℃になった時、仕込液の加熱を停止し、分縮機の冷却水を止め、再蒸留部液を加熱して蒸留しました。
6-4-3 蒸留結果
留出液の分析結果を表6-2に、官能審査結果を表6-3に掲げます。
①蒸留B(分縮液の再蒸留)
蒸留A(ポットスチル型の蒸留)と比較すると、ビーカースケールの実験(6-3 再蒸留型蒸留機による蒸留実験結果参照)と同様に、酸度及び紫外部吸収(フルフラール類)が減少しています。
②蒸留C(留出液の全量再蒸留)
留出液全量再蒸留では酸度は更に減少していますが、紫外部吸収(フルフラール類)は減少していません。フルフラール類は一旦生成して留出すると、単式蒸留機では分離できないことを示しています。
③官能審査の結果Aに比べBは香味がきれいであり、Cは香味はきれいであるが味がうすいと評価されました。
表6-2 100L再蒸留型蒸留機による醪の蒸留による留出液の分析結果
表6-3 留出液の官能審査結果
6-4-4 醪蒸留試験結果のまとめ
①紫外部吸収(275nm、フルフラール類)は分縮液再蒸留(B)はポットスチル型(A)の約77%に低下したが、全量再蒸留(C)してもBより低くはなりませんでした。
②酸度は、BはAの81.3%に低下し、CはAの25%に大きく低下しました。
③アセトアルデヒドや酢酸エチルなどの低沸点成分はA~Cとも大きな差はないが、βフェネチルアルコールはA>B>Cと低下し、酸度と同様な傾向を示しました。
官能審査結果は分析結果をよく反映しており、分縮液再蒸留ではこげ臭や酸度が低下して、きれいな香味留出液が得られました。
しかし、再蒸留量の割合が大きくなると、酸度は低くなりますが、沸点の高い香気成分の濃度も低下することを示しています。