(7) 有孔棚段付多機能単式蒸留機による蒸留方法
有孔棚段付多機能単式蒸留機は、図5-2のように、棚段の部品装着孔に部品を装着しないで、通常のポットスチル型蒸留機と同様に蒸留を行います。
有孔棚段付多機能単式蒸留機では、表5-1 に掲げたように、蒸留を行う時に5種類の運転要素を調節することができます。
それぞれの運転要素操作による留出液の成分変化は次の通りです。
①濃縮塔部の保温材による被覆面積
標準的な状態:保温材なし
被覆面積が大きいほど、蒸留機内で生じる凝縮液量が減少し、留出液の高沸点成分濃度及び酸度が増加し、味は濃厚になります。芋焼酎や黒糖焼酎等で味を濃厚とし、原料特性を強くする場合は被覆面積を大きくし、穀類を主原料とする焼酎(単)等で軽快な香味とする場合は小さくします。
②缶液加熱量
標準的な状態:蒸留時間は3時間程度が良いとされています。
加熱量は缶液の蒸発速度と蒸留時間に影響します。加熱量が少ないほど、濃縮塔内の蒸気速度が小さく、蒸留による成分の分離能が高くなり、留出液の高沸点成分濃度及び酸度が減少し、アルコール濃度は高くなりますが、加熱量が少ないほど、加熱時間が長くなり、フルフラール類濃度が増加し、缶液中の加熱による化学反応生成物が増加します。
ポットスチル型蒸留機では、加熱量を一定として蒸留すると、留出速度は次第に小さくなります。ご参考までに、醪500mlを加熱量一定として蒸留した場合の、留出速度(ml/m)と留出液のアルコール濃度を図5-9に掲げます。
③還流時の分縮機冷却水温度
標準的な状態:還流ゼロを基本とすると、留出液の温度は30℃程度が良いとされています。還流がゼロの場合は分縮機は留出液を冷やしすぎない程度に流せば良いと考えられます。
還流しながら蒸留する場合、分縮機の冷却水温度(正確には分縮機出口の蒸気温度)が低いほど、分縮液量が増加し、残存蒸気中の高沸点成分量が減少するため、留出液の高沸点成分濃度及び酸度は減少します。
④還流量
標準的な状態:還流はゼロとします。
還流しながら蒸留する場合、再蒸留部への分縮液の還流量が多いほど留出液の高沸点成分濃度及び酸度は減少します。
⑤採取停止アルコール濃度(末ダレカットアルコール濃度)
標準的な状態:通常8~15%v/v程度ですが、醸造方針にしたがって設定します。カット濃度が低いほど留出液の高沸点成分濃度、酸度が増加します。

原料醪:500ml
アルコール分: 16.1%v/v
加熱量:マントルヒーター目盛 4.0